『偽情報戦争 あなたの頭の中で起こる戦い』レビュー
『偽情報戦争 あなたの頭の中で起こる戦い』を読み終えたのでレビュー。
偽情報戦争 あなたの頭の中で起こる戦い | 小泉 悠, 桒原響子, 小宮山功一朗 |本 | 通販 | Amazon
間違いなく良書なので強く一読をお勧めしたい。
その上で指摘したいのは本書が一般市民の「無関心」を主題化していない点だ。 (古めかしい言葉でいえば「アパシー」)
ディスインフォメーションが効果を持ったり、民主主義が危機に陥る最大の原因は 大多数の市民が自分の利害にしか関心がなく、社会問題に「無関心」だからではないのか。 (市民の認識から「公共圏」が最初から失われている状態)
そこへ新型コロナのような自分に直接影響する社会問題が起こった途端、 突然関心を持ち、その関心が「にわか」であるがゆえに陰謀論に簡単に騙されてしまう。 たとえば台湾有事が現実化すれば同じことが起こるだろう。
情報リテラシーが無いのではなく、ただ眠っているというだけであり 寝ている子が急に起こされれば、何が正しい情報なのか分からないのはある意味当然だ。
真の問題は、成熟した民主主義国家では「無関心」から目覚めること、 つまり社会問題に関心を持つことを、ダサいとみなす価値観が定着していることだろう。
社会問題に関心をもつ知的情熱、まさに筆者のお三方のような「熱さ」を鬱陶しいとみなす、 そうした「無関心」こそがディスインフォメーションを効果的にしている最大の理由なのではないか。
中国やロシアの一般市民も、政府のプロパガンダに加担しているわけではなく 単に自分に危害が及ばない限りで「無関心」なだけで、それは西側諸国も同じだろう。
例えば近年のアメリカ社会は「分断」されたのではなく、それまで無関心だった 多くの市民が突然関心を持つようになり、その結果、左右両極に「集結」し始めたのではないか。
その意味で情報戦とは、寝た子を相手より早く起こした者が勝つ戦いであり、 寝ている状態、つまり「無関心」(公共圏の喪失)という論点が本書で十分に 掘り下げられていない点が唯一残念だった。
RWBY氷雪帝国 Japanese Official Fan Meetingのイメージボード展示が素晴らしすぎた件
2022/09/10(土)～9/19(月)東京神田space caimanで開催の『RWBY氷雪帝国』Japanese Official Fan Meetingに行ってきた。ファンミといっても特にゲスト登場や交流会はなく、小さな画廊での展覧会といった感じ。
9/17(土)16時台で入場者は僕をふくめ3名（あなたの読み間違いではありません。3人です）。
入場券は缶バッジ付き1,000円にして、缶バッジは自分でワイスを選び、ランダムのチケットも偶然ワイスになった（受付の方が気をつかって下さったのかも）。
入口付近は原作DVDやCDのパッケージとアフレコ台本がガラス内に展示。手は触れられない。
その奥の小さなデスクに落書き帳とペン類。来場したと思われるプロのイラストレーターさんのお絵描きのほか、ファンの方が描いたらしきキャラ絵もあった。色付けまでしてあって上手い。
入口の部屋はその他にキャラクター紹介などで、『RWBY』をよく知っている人はスルーしていい展示。
すごかったのは隣の部屋。
何と第1話の400シーン近いすべての絵コンテがクリアファイルに綴じられ、手に取ってじっくり読めるというぜいたくさ。何せ会場に3人しかいなかったのでじっくり読ませていただきました（椅子があったら1時間以上読んでたかも）。
第1話絵コンテで何といっても気になるのは、ローマンの逃亡がワイヤーなのかハシゴなのかだが（そこじゃない）、絵コンテでは原作どおりハシゴ。どこかでワイヤーに変更になったらしい。
絵コンテの置かれた台の後ろを振り返ると、その壁の裏表ともキャラクター設定画集の展示。チームRWBY、JNPR、その他キャラすべて。絵のサイズは小さいけど微細な書き込みがきれいな設定画がならんでいた。
気になったのはノラ、ピュラの設定画のチークが境界のはっきりしたピンク色で塗られていたこと。他の女性キャラは本編どおり境界がぼかされている。別の用途の設定画なんだろうか？
そして、個人的にいちばん印象に残ったのが、その背後にあるもう一枚の壁一面に展示されたイメージボード集。
ボードのサイズは小さいのに圧倒的なスケール感。
「ああっ、これが『氷雪帝国』だったのか！！」と、思わず声が出そうになった。
ボードの一つは、中国、ロシア、北朝鮮の軍事パレードを全部足して、戦車やミサイルなどの兵器類を取り除いた感じのイメージで、広大な広場に見渡す限り整然と並ぶ無数の兵士と、距離を置いて向き合うネガワイスの姿の俯瞰。
背景にある人民大会堂っぽい建築物には黒い懸垂幕が数十メートルの間隔をおいて掲げられ、赤い逆三角形のマークが描かれている。別のイメージボードでは、巨大な城壁に同じ懸垂幕がいくつも掛り、兵士が居並ぶ。
この2枚を見るとまさに、全体主義国家。
本来の「氷雪帝国」には全体主義国家とその独裁者であるネガワイスという明確なイメージがあったんだ。気づかなかった。
他のイメージボードもアニメ本編に何度か登場した「帝国」全体の俯瞰図（城壁からトゲが突き出しているあれ）と、中央にビッグニコラスの巨像。
これもイメージボードでは圧倒的なスケール感と迫力。もし映画館のスクリーンで観たらあんぐり口が開いたままになりそう。
別のボードには例のロボット部隊とルビーの戦闘シーン。あのロボットたちもイメージボードでは見違えるほどカッコいい。
そして一番うっとり見とれてしまったイメージボードは、ダストを積んだ列車が「帝国」の中心駅に乗り入れる場面。
プラットフォームでは軍隊を引き連れたワイスが一段高いところに立ち、敬礼をして列車を迎えている。
背後に並ぶ軍楽隊は派手にファンファーレを鳴らし、駅には紙吹雪が舞っている。
勇壮な行進曲とネガワイスの「帝国よ永遠なれ！」という声、列車がホームにゆっくり停止するブレーキ音まで聞こえてきそうな一枚。このボードにはちょっと鳥肌が立った。
他にもブレイクとヤンが迷い込んだ屋敷のイメージボードも美しいし、第11話で屋敷から線路に乗って走り出してくる大勢のグリム化したファウナスと、黒い炎のように燃え上がるシルエットのネガブレイクのボードも。
これらイメージボード集の展示は、圧倒的に美しかった。本当に美しかった。
さすがにナチスドイツを思わせるイメージはコンプラ的に映像化できないとしても、氷雪帝国の城堡やビッグニコラスのスケール感と重量感は、残念ながらアニメ本編ではイメージボードの1割も再現されていない。
そして、イメージボード集の壁の裏側は第1話の原画集。
さすがに展示スペースの制限で10シーン分くらいしかなかった気がするが、原画、二原のほか、作監修正も数枚（作監修正だけ緑っぽい紙）。
ルビーのダストショップ前の戦闘シーン、ワイスが甲冑の大型グリム（名前忘れた）の胴体を突き破ってとどめを刺すシーンの原画があり、これもじっくり見入ってしまう。
作監修正については、素人にはどこが修正されているのかまったく分からない。
ルビーのダストショップ前の戦闘シーンで、クレセントローズを地面にガツン！と叩きつける決めポーズの作監修正では、鼻の描きかたについてコメントがていねいな言葉で記入されていたが、違いがよく分からなかった。
物販はワイスかブレイクのトートバッグが目当てだったが、売り切れ。それぞれグレーとブラックで普段づかいしやすいからかも。
以上、今回の展覧会をまとめると、第1話絵コンテまるまる1冊を手に取ってじっくり読めたのと、何よりもあのイメージボード集が、本当に、本当に素晴らしかった。
あのイメージボード集を観た上で、『RWBY氷雪帝国』のワイスの心象風景を「脳内補完」しながら観なおせば「劇場版『RWBY氷雪帝国』」的なものを幻視できるかもしれない。
イメージボード集のPC、スマホ壁紙化希望。
『RWBY』日本語吹替え版と原作のルビーの声の違い
2022年夏アニメ『RWBY氷雪帝国』のおかげで、原作『RWBY』を初めて知ってニコニコ動画の日本語字幕版でVol.8まで完走しました。
その後、日本語吹替え版がとっくに出ていたことを知って、『氷雪帝国』もそれを引き継いで主役のルビー・ローズはCVが早見沙織さんなわけですが、オリジナルの声優Lindsay Jonesさんと声質が違いますよね。
オリジナルのLindsay Jonesさんの声はこちら。
それがずっと気になってたんですが、『月刊ニュータイプ』2022年10月号に掲載された『氷雪帝国』の脚本家・冲方丁氏のインタビューのあるエピソードを読んで激しく納得しました。
『氷雪帝国』第1話、原作でもVol.1の冒頭ですが、姉のヤン・シャオロンがビーコンアカデミーに合格して、ルビーはまだ入学資格の年齢になっていないのでヤンだけが家から出ていくことになる部分。(すぐにルビーも飛び級で合格するわけですが)
冲方氏が脚本でルビーに「ひとりになって寂しい」というセリフを言わせていたところ、原作のルースター・ティースから「ルビーはそんなことでは寂しがらない」、寂しいのではなくて、むしろヤンに先に行かれてしまって悔しいんだ、というNGが入ったらしいです。
このエピソードに、原作と日本の解釈の違いがよく表れてるなぁと。
日本側はルビーは人見知りで劣等感がある、もっといえばコミュ障の武器オタクの面が強くて、早見沙織さんの演技がピッタリです。
いっぽう原作のルースター・ティースは、そうはいってもルビーは負けず嫌いで、ヤンより2歳年下なだけまだワガママさもあるので、Lindsayさんのいたずらっぽい声がよく合っています。
早見沙織さんも原作に寄せた演技は当然できると思うので、吹替え版の監督や音響監督の指示なのだろうと思います。
そう思いつつ『氷雪帝国』を見ると、ルビーはチームRWBYの他の3人に比べるとキャラがやや弱くて、本来ワイスを悪夢から助け出すメインのはずが、ちょっと影が薄くなってしまっているなあと。
声質だけでいえば、たとえば『輪廻のラグランジェ』の京乃まどかあたりが近い気がします。キャラは全然違いますが。
