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『偽情報戦争 あなたの頭の中で起こる戦い』レビュー

『偽情報戦争 あなたの頭の中で起こる戦い』を読み終えたのでレビュー。

偽情報戦争 あなたの頭の中で起こる戦い | 小泉 悠, 桒原響子, 小宮山功一朗 |本 | 通販 | Amazon

間違いなく良書なので強く一読をお勧めしたい。

その上で指摘したいのは本書が一般市民の「無関心」を主題化していない点だ。 (古めかしい言葉でいえば「アパシー」)

ディスインフォメーションが効果を持ったり、民主主義が危機に陥る最大の原因は 大多数の市民が自分の利害にしか関心がなく、社会問題に「無関心」だからではないのか。 (市民の認識から「公共圏」が最初から失われている状態)

そこへ新型コロナのような自分に直接影響する社会問題が起こった途端、 突然関心を持ち、その関心が「にわか」であるがゆえに陰謀論に簡単に騙されてしまう。 たとえば台湾有事が現実化すれば同じことが起こるだろう。

情報リテラシーが無いのではなく、ただ眠っているというだけであり 寝ている子が急に起こされれば、何が正しい情報なのか分からないのはある意味当然だ。

真の問題は、成熟した民主主義国家では「無関心」から目覚めること、 つまり社会問題に関心を持つことを、ダサいとみなす価値観が定着していることだろう。

社会問題に関心をもつ知的情熱、まさに筆者のお三方のような「熱さ」を鬱陶しいとみなす、 そうした「無関心」こそがディスインフォメーションを効果的にしている最大の理由なのではないか。

中国やロシアの一般市民も、政府のプロパガンダに加担しているわけではなく 単に自分に危害が及ばない限りで「無関心」なだけで、それは西側諸国も同じだろう。

例えば近年のアメリカ社会は「分断」されたのではなく、それまで無関心だった 多くの市民が突然関心を持つようになり、その結果、左右両極に「集結」し始めたのではないか。

その意味で情報戦とは、寝た子を相手より早く起こした者が勝つ戦いであり、 寝ている状態、つまり「無関心」(公共圏の喪失)という論点が本書で十分に 掘り下げられていない点が唯一残念だった。